※以下のコラムは、私が理事を務める一般社団法人中小企業支援ナビに寄稿したコラムに加筆修正したものになります。
人間は根本的に“変化”を嫌う生き物です。
そして、その人間が集まってできている“会社”という組織も同じように変化を嫌います。
今回は、そんな変化大嫌い、現状維持大好きな企業の事例(仮にA社とします。)をご紹介します。
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A社は、住宅用資材を作っている製造業で、売上高 40億円 従業員数 70名ぐらいの規模です。
売上高の約20%を占める主要顧客(小売業(EC販売含む)、仮にB社とします。)がいるのですが、とにかくB社に気を遣う、遠慮する、配慮する、ことをしてきました。
そして、ある意味それを戦略と捉えているような節がありました(当然、戦略でもなんでもありません。)。
ビジョンやあるべき将来像があるわけではありません。
とにかくB社の機嫌を損ねないということが最重要課題になってしまい、B社の動きに合わせた対症療法的な動きしかできていませんでした。
ある時、B社から、これからは小売のノウハウを生かして自社でも工場を持つ、つまり製造分野に参入するという宣言をされました。
さらに、B社はA社に対して、「製造のノウハウを持っていないから教えてほしい。A社さんの工場に人を送るから製造の指導をしてほしい。」という相談を持ち掛けました。
そして、「いやウチ(B社)でも作るけど、A社さんにはちゃんとこれまで通り注文を出し続けるから、何とか指導してほしい。」と頼み込まれてしまいました。
傍から見ると、誰がどう考えてもおかしいこの相談、当然丁重にお断りするものと思っていましたが、A社はこの相談を受け入れました。
「B社の機嫌を損ねると20%の売上がなくなってしまうかもしれない。」と。
その結果今どうなったのか、
・量産物の作りやすいものはB社が自社工場で作るようになり、個別仕様の作りにくいものしかA社に発注がこなくなりました。
「作りにくいものを作る仕事は技術力があるからこそ。」とも言えますが、利益の出にくい商品の製造を押し付けられているようにしか見えません。
・B社からは「もっと早く、もっと安く作ってくれないとこまる。」ということを言われています。
言外には、「できないのなら、A社への発注はもちろん減るし、何なら自社でも作れるようになったり、ほかの委託先を探すよ。」という意味が込められています。
ここまで読んでくださった賢明な皆さんであればお分かりになると思いますが、私が経営コンサルタントだから特殊能力があるとかいう話ではなく、第三者が見たら、100人中100人が「この状況はおかしい。経営層は何とかすべき。」と考えるはずです。
ですが、この期に及んでA社役員は、
・B社製造部門はうまくいっていないような噂を聞く。
・ウチ(A社)と同じような価格・品質・納期を実現できるような新しい委託先は見つからないと思う。
・だから、B社からの注文が減ることは考えにくい。
というような話をするのです。
今この状況下において、どんな将来を描くのか、どう行動を起こすのか、というと、“現状維持”なんですね。
「今この状況で動いたら、(B社が)製造がうまくいかなかったり委託先を見つけられなかったときに、機嫌を損ねて戻ってきてくれないかもしれない。」だから容易に動けないという判断でした。
驚愕でした。B社が製造に参入してから約3年、この期間がおそらく猶予期間だったはずです。
その間に、新たな販売先を見つける、もっと追いつけないくらいに製造分野を強化する、まったく別の戦える土俵を探す、といったことを準備してこなければならなかったはずでした。
しかし、A社の経営陣はB社への過度な配慮を「顧客志向」「顧客ニーズ対応」という便利な言葉にすり替え、思考停止状態で何ら手を打つことなく現在に至っています。
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組織の中にいると、その固定観念や先入観というもとが邪魔をして、「現状維持思考」はさらに強化されていきます。
B社が製造に参入するといった3年前の状態:山登り途中で小雨が降ってきた状況
とすると、
現在の状態:雨足は強くなり、雷は鳴り、遠くの方で土砂崩れの音がし始めた状況
のように感じます。
早急に登って山小屋を目指すことも、下山することも選択しません。
A社は雪が降ろうが槍が降ろうが、その場に留まり続けるような気がします。
そして、自分のいる場所が土砂崩れを起こしてはじめて動く、というか強制的に動かされることになるのではないでしょうか。
山を登り続けるか、下山するか、こんな重要な判断は経営陣にしかできません。
将来を見る目、危機を察知する力、適切な状況判断力、こういった俯瞰する力をリーダーが持ち合わせていない組織は、簡単に遭難してしまうでしょう。
山の天気は思った以上のスピードで急激に変化するので・・・。
岐阜県 中小企業診断士 森 竜也