※以下のコラムは、私が理事を務める一般社団法人中小企業支援ナビに寄稿したコラムに加筆修正したものになります。

 

昨年、岐阜県の某伝統産業の産地で、実態調査(メーカーや商社、外注企業等、約200社にアンケート調査を実施)の仕事に取り組みました。

ざっくりいうと、その商品ジャンルにおいて全国流通の約半分のシェアを岐阜県の産地で占めている、そんなような伝統産業の産地です。

 

約半分のシェアを占めているということはすごいことなのではありますが、じゃあそれがいいことかというと、必ずしもそうではありません。

たくさん流通しているということは、それなりの理由があって、それは希少性があって付加価値が高いというよりは、特徴がなくありふれていて割と安価だというように認識されているように感じます。

また、シェアは大きいのですが、販売金額はピーク時の4分の1にまで減少していて、業界全体が非常に厳しい状況と言えます。産地の継続性という意味で非常に産地全体で危機感が高まっています。

 

その実態調査の中で、「自社が今取り組んでいる本業以外の分野、川上分野・川下分野、あるいは新事業に取り組む必要性があるか」ということを聞きました。販売金額の大幅な減少、テクノロジーの進展や価値観・ライフスタイルの変遷もあって、産業構造自体が大きく変わりつつある状況下であるものの、その結果は、約6割の企業は「現状維持、何もしない。」という回答でした。

それでは残りの4割の企業はどうかというと、非常に強い危機感を持って「1年以内に新しいことに取り組む。」と回答した企業は、その内の約3割という結果になりました。

その企業ごとに様々な理由があることは推測できますが、実態として、産業自体が存亡の危機にある中においても、「新しいことにすぐにチャレンジする!」と考えている企業は、1割程度しかいないことがわかりました。

しかし、これはこの産地特有の話ではなく、日本各地の伝統産業おいて起きている縮図のような事態なのではないかと考えています。

 

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さて話は変わりますが、昨今人材の獲得競争がコロナ前に戻ってきたように感じています。

採用しようにも人がいないことはもちろん、自社の人材が容易に転職してしまうこともあって、それを引き留めるためにも賃上げしなければ、、、と考えられている事業者様からの相談が増えています。

正しいかどうかは別にして、「給料を増やさなきゃいけないっていう事情はわかるけど、従業員のスキルがあがっていない、成長していない、つまり能力があがっていないのに、高い給料を支払わなきゃいけないのは納得できない。」と考える経営者の方が多いです。

つまり、能力がアップした⇒だから給料を増やす、は納得できる、順番が違うという考え方です。

 

一方で、人件費アップや原料等のコストアップがキツクて、取引先の顧客に単価を上げてもらうにはどうすればいいか、というような相談も増えています。

コストが上がったんだから、値上げしてもらって当然、という考え方もわかりますが、一度立ち止まって、賃上げの話と比べてみると矛盾していることに気づきます。

 

賃上げの話と同じように考えると、顧客側としてはコストアップしているという事情はわかっているものの、「今まで通りの同じ商品とサービスで、付加価値も変わっていないのに、単価を上げるのはちょっと・・・。何らかの価値を上げてからじゃないと、単価アップは呑めない。」という企業がほとんとなのではないでしょうか。

賃上げの話では、能力アップ⇒賃上げという関係で、単価アップの話では、付加価値アップ⇒単価アップという関係にあるように思うのです。

繰り返しになりますが、その考え方の是非はともかくとして、そう考えている人(経営者も顧客も)が多いという話です。

ということから考えると、日々同じルーティン業務をこなし、昨日と同じものを同じ品質で作って安定供給していくということももちろん大事ではあるのですが、おそらくそれだけでは、企業経営としては持続性に不安が残ると思うのです。

売上・利益向上どころか、売上・利益維持すら困難になると考えます。

企業の強みや付加価値というものの賞味期限はどんどん短くなっている、そんな印象を持っています。

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先ほどの伝統産業の実態調査に話を戻しますと、業界自体の存在意義が問われるような状況下になっても、6割の企業が新しいことへのチャレンジを放棄し、3割の企業は具体策はなく、1割の企業しか危機感をもって新規事業に取り組もうとしていないという状況なのです。

それほど、「新しいことにチャレンジする」ということに対して、企業はもちろん、そこにいる人(経営者も従業員も)も抵抗感が強いのです。

しかし、賃上げと単価アップでも説明した通り、新しい価値を生み出す企業でなければ、顧客に認めてもらうことはできません。

様々なコストがアップする現在の局面では、より一層「新しいことへのチャレンジ」が企業にとって必要不可欠なのです。

 

先ほど、企業の強みや付加価値は賞味期限が短くなっていると説明しましたが、これは個人個人についても同様のことが言えます。

また、「新しいことへのチャレンジ」を厭わない企業になるためには、そこにいる個々人が「新しいことへのチャレンジ」を厭わないようにならなければなりません。

一朝一夕にはいきませんが、人事評価の仕組みや改善改良提案制度、発明提案制度等を導入することによって、組織風土を変えるような仕組みづくりに中長期的に取り組んでいくことが必要な時代になっていると考えています。

岐阜県 中小企業診断士 森 竜也