※以下のコラムは、私が理事を務める一般社団法人中小企業支援ナビに寄稿したコラムに加筆修正したものになります。

新型コロナウイルス感染症の再拡大、緊急事態宣言の発令に伴い、世の中全体がにわかに慌ただしくなってきました。しかし、昨年との大きな違いは、企業の対応が2極化しているように感じられることです。端的に言うと、“うまく対応できている企業”と“浮足立って慌てふためいている企業”とに分かれるということです。

日経ビジネス(2021年9月6日号)の有訓無訓で、アスクル創業者の岩田彰一郎氏が「良い時は悪い時、悪い時は良い時。経営者は俯瞰する目を身につけて。」と言われています。まさにその通りだと思います。良い時には足下を見直し(勝って兜の緒を締める、的な)、悪い時には体質強化のチャンスととらえる、そしてどちらの時にも共通して言えるのは、「未来を見据えながら」ということです。

しかし現実には、(業績が)良い時には気が緩み、悪い時には右往左往するのみ、という企業が多いように感じます。これでは、「未来を見据える」ことなどできず、目先で起きていることに、ただただその場凌ぎの対応をすることしかできません。さらにwithコロナの時代になって、この“良い時”と“悪い時”が目まぐるしく入れ替わる、そんな時代になったため、「未来に目を向ける」ことが苦手な企業にとって、それはより一層難しくなっています。

さて「未来を見据える」ことは、なぜそれほど大事なのでしょうか? 一つは、先ほど言った通り、緊急度だけに囚われて、眼前で起きていることに四苦八苦してしまうということです。重要度の視点が欠けてしまいます。もう一つは、対症療法になりがちだということです。例えるなら、「雨漏りしている場所に、バケツを置く。」イメージでしょうか。確かに雨で濡れることはなくなりますが、根本的な解決には至っていません。当たり前ですが、屋根の穴を塞ぐことが、この場合の本当の意味での解決策になります。

ある支援先で、DXに全社的に取り組むことになったときのこと。単に業務プロセスの改善・改良を念頭に置いた発言が多くみられることに気づきました。つまり、既存の業務プロセスを維持したままに、その(実務者の作業を)効率化をするためにデジタル化を進めるというイメージです。

DX推進にあたって、総論賛成各論(自分に関わること)反対になることは多く、自身のやり方を変えたくない“抵抗”がでているのだと思っていました。しかし最近は、それだけではないのではないかと思っています。それは、「目先対応の仕事を日々繰り返してきた」結果、それに慣れてしまい、本来であれば丁寧に取り組むべき重要な仕事まで“その場凌ぎのやっつけ仕事”でやってしまう、というかそのやり方しか知らない、ということなのではないかと想像しています。つまり深く考えることができないのです。抵抗勢力も問題ですが、こちらの方が根が深い問題です。

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同じく、日経ビジネス(2021年9月6日号)時事深層 「りそなHDと京葉銀行が提携。地銀連合の新モデル示せるか」の中で、「次は(地銀再編は)名古屋圏との見方も」と書かれていました。中でも、名古屋銀行、愛知銀行、中京銀行の第二地銀 三行に言及されていました。今年の6月の中京銀行のリストラ策(3年で人員3割削減(採用抑制と希望退職で)、今年 8店舗減等)発表もあってのことかもしれません。

マイナス金利の長期化に伴い収益力が低下、店舗維持コストや人件費が賄えなくなっているのはわかります。ただそれだけではなく、市場環境の大きな構造変化、テクノロジー進展に伴う異業種の参入、一方で変化に対応できない硬直化した組織人事体制、と将来を見通すことを怠ってきた結果なのではないかと思えてしまうのです(もちろん、すべての金融機関がそうだというわけではありません)。

私が就職活動をしていた20年位前までは、大学を出て銀行に就職することは、ある種の「成功者」だと思われていました。そんな花形産業だった「銀行」ですら、生き残りをかけた戦いに臨まざるをえない状況なのが現代であり、顧客のペイン(課題、問題、困っていること、不備、不利益)をどう取り除くのか、顧客にゲイン(利益、恩恵、メリット)をどう得てもらうのか、について未来を見据えて真剣に考え抜くという当たり前のことが、どんな業界どの企業にも求めらているのだと日々感じています。