※以下のコラムは、私が理事を務める一般社団法人中小企業支援ナビに寄稿したコラムに加筆修正したものになります。
4月28日に発表された「中小企業白書2023」の概要には、「足下の新型コロナや物価高騰、深刻な人手不足など、中小企業・小規模事業者は、引き続き厳しい状況にある。」と記載がありました。
それに加えて、賃上げ圧力もある一方で価格転嫁は容易に進みません。
価格転嫁スピードよりも物価上昇ペースの方が早いという現実もあります。
とはいえ、世の中にはこういった状況に苦しんでいる企業しかいないのかというとそうではありません。
今回は、中小企業、中でも従業員数 50人未満の小規模に近い製造業の設備投資についてご紹介します。
①陶磁器製造業の概要
年商:10億円弱 食器の多品種中量生産を得意としている。
国内:海外=5:5 の売上割合。コロナ禍であっても売上はそれほど落ち込まず、そしてアフターコロナ局面と円安の影響もあって、現在は受注過多な状況。
工場内に人はそれほどおらず、自動化が進んでいる。
設備投資の動機:素焼製品を製造している外注先が廃業するということで、その内製化を図るため。設備投資額 約1億円。
②自動車部品製造業(ダイカスト切削加工)の概要
年商:5億円弱 重要保安部品を加工。熟練技術者はいない。
継続的な設備投資で自動化、省力化・省人化を進めている。
設備投資の動機:EV化に伴う難加工品のロボットを活用した自動生産ラインの構築。設備投資額 約2億円。
両社の共通点として、業績好調なのは当たり前なのですが、それ以外に2点ありました。
一つ目は、設備投資した上での費用対効果を、市場性を十分把握した上で、しっかり説明できるということです。
シミュレーションに淀みがありません。当たり前のことなのですが、「設備投資をしたい、けれど、やってみないとわからない(費用対効果はわからない)」という会社も実際は多いです。
二つ目は、直接的な動機=課題に基づいて、解決策として設備投資をもちろん行うわけですが、さらにプラスαの優位性をもつくれるというストーリーが両社ともにあるということです。
わかりにくいので、二つ目について簡単に説明します。
陶磁器製造業は、外注工程の内製化が設備投資の一番の目的ですが、それによって、工場内廃棄物を再利用するリサイクルの循環フローを構築できるようになります。
つまり、工場内廃棄物をゼロにできるような仕組みづくりが副次的に作れるようになるのです。
しかも、リサイクル品になってもコストアップにならず、供給価格も変わらないリサイクル品を提供できるようになります。
また、(これは今回の設備投資に限ったことではないですが、)基本的に陶磁器は重く、力の弱い女性や高齢者には不向きな作業工程が多いとされていますが、この会社では、女性でも高齢者でも作業できる工程づくりを機械装置やロボットを通じて構築しています。
そのため、“人手”にそれほど困っていません。
今回の設備投資も「(コストが安価と考えられる)外注工程の内製化」ですが、自社でしっかり利益がでる計算ができているのは、誰でも作業できる工程づくりが可能だからです。
そして、地域の他の陶磁器製造業への原料(生地)供給も想定し、地域産業のサプライチェーンを担うような事業になっています。
自動車部品製造業は、自社内の工程自動化、ロボットの配置・調整を内部人材でできるように体制を作っています。
一般的には、ある特定の部品用にロボットのラインを作ってしまうと、それ以外の部品を作るときに自社ではロボットを動かしたり、調整できない会社がほとんどです。
しかし、この会社では自社でできるようにしています。
その理由は、この会社の元来の強みは柔軟性、フットワークの軽さ、応用力であり、これらの強みが、“動かせない”ロボットや自動生産ラインに引っ張られては元も子もないからです。
自社の強みを打ち消さないように、従業員の教育や育成を「ものづくり」だけではない方向に向けています。
両社とも自動化を進め、適宜ロボット等を導入することによって、省人化・省力化を進め、生産性を向上させています。
このことを説明を聞いたり、現場を見れば何をやっているのかは容易に理解できます。
しかし、競合他社がそれを見て、すぐに真似をできるか、追いつけるかという観点で考えると、おそらく容易なことではないでしょう。
というか、至難の業です。
製品自体、スペック、コスト・納期・品質が大事なのは言うまでもありませんが、それ以外の競争優位性をどう確立するのか、そしてそれができている企業が、より一層受注も増やすし利益も増やすし、だから新たな設備投資、人材採用ができて、さらに追いつけないような競争優位性を確立する、というサイクルができているように感じます。
冒頭に述べた通り、世の中的には企業物価も上がって大変だと言っている企業が多いように感じられますが、今回ご紹介したような企業が少しずつ、だけど至る所に存在して、優位性をもっともっと確立して、勝ち組とそれ以外の差がどんどんついていっているように感じられます。
間違えていけないのは、旧態依然としたものづくりを転換、革新できるのは十分なリソースがある大企業・中規模企業だけ、ではないということ。
デジタルやロボット、AI等テクノロジーの力によって、中小企業・小規模企業であっても、その気になればチャレンジできるということをよく理解しておく必要があります。
岐阜県 中小企業診断士 森 竜也