※以下のコラムは、私が理事を務める一般社団法人中小企業支援ナビに寄稿したコラムに加筆修正したものになります。

いきなりですが、皆さんの会社ではまだ「何時間働いたか」だけで仕事の価値を測っていませんか?

もしそうなら、その「時間を売って稼ぐ」的な昭和から続く古い発想、これからのAI時代にはもう通用しなくなるかもしれません。

先日、Business Insider Japanの『「早く仕上げるほど売上は減る」。富士通・時田社長が語るSIerが「人月の通用しない時代」で稼ぐ方法』という記事を読みましたが、富士通の時田社長が危機感を語っていました。

記事の中で時田社長は、「人月をベースにした(対価の)いただき方では、これ以上の成長は見込めない」と明言しています。AIの進化によって、「1人のスーパーな人材がAIを使いこなせば100人分の仕事ができる」時代になりつつあるからです。

顧客にとって「圧倒的なスピード」はとてつもない価値のはずなのに、旧来の工数ベース(人数×時間)の契約では「早く仕上げるほど、売上が小さくなる」というなんともバカげた矛盾が起きるわけです。

だからこそ、富士通は今、「人の時間」を売る会社から、「スピードや成果」に応じて対価を得る会社へと必死に舵を切ろうとしています。

 

これ、「IT業界の話でしょ?」と自分たちの業界には関係ないと思っていませんか?しかし、決して対岸の火事ではありません。全く同じ構造的な問題が、今、地方の製造業の現場でも起きているということに気づいていただきたいのです。

 

私が支援している、ある地方の中小企業製造業でのリアルな話です。

彼らは某大手自動車メーカーTierⅠの新規プロジェクトに参画していました。

そこで、現場の優秀なエンジニアたちが、圧倒的な行動力と課題解決力を発揮して、極めてスムーズにプロジェクトの難題をクリアしてしまったんです。

本来なら大絶賛されて然るべき成果です。

しかし、現場のリーダーから上がってきたのは「他者がやるより所要時間が短かったため、かかった工数(時間)で計算すると、顧客への請求額が減ってしまう」という不思議な悩みでした。

 

これがどれほど異常な事態か、お分かりいただけるでしょうか。優秀な人材が、スピーディーに高度な課題解決を行った結果、請求金額が減るんですよ。多くの企業が未だに気づかずに陥っている「工数主義」という古い構造の限界を示していると思いませんか?

 

これからの時代、「安く・早く・安定したものを作る(QCD)」という製造業の基本価値は単なる前提条件に過ぎず、それだけで企業が生き残れる時代はもう終わりかけです。

AIやロボット、新興国がどんどん代替していきますよね。

「あそこに頼めば、他がやらないような面倒な課題を解決してくれる」という顧客の痛みを本質的に取り除く『課題発見と解決の価値』こそが、これからのビジネスを支える中核になるのです。

 

だからこそ、今すぐやるべきことは「提供価値の再定義」と「価値ベースの価格設定への転換」です。

「何時間作業したからいくら」という工数主義から脱却し、「これだけ難易度の高い課題を、これだけのスピードで解決した(=顧客の事業リスクや機会損失を防いだ)」という『目に見える成果』に対して、それに見合う適正な金額を設定して、確実な利益を生み出す。

「正当な対価を得て、しっかりと稼ぐ」ということは、当たり前のことで、その組織が「事業を継続する責任感」を持つということです。適正に稼げない組織は、次の投資もできず、結果として顧客や社会に貢献し続けることなんてできません。

 

そして、これは対顧客だけの話ではありません。

社内の評価制度にも通じることです。

短時間で高い成果を出した人間が正当に評価されず、ダラダラ時間をかけて残業している人間が多く稼げるような旧態依然とした組織風土なら、優秀な人材から順番に見切りをつけて会社から去っていきます。

 

過去の苦労から生まれた価値が、世代交代とともに「ただの当たり前」になり、社内でも社外でもその凄さが伝わらなくなっていく。

そんな「なんとなく感覚で分かっている暗黙の了解」にいつまでも甘えている余裕はもうありません。 自分たちが提供している本当の価値は何かを明確に言語化し、顧客に正当な対価を求め、社内の評価制度も「時間」から「成果」へ一気に転換させる。

それくらいの覚悟を持った企業だけが、この激変するAI時代を生き残れるのでしょう。

岐阜県 中小企業診断士 森 竜也